起きていた問題
A社は、大手企業であるB社と長年の取引があり、B社からの受注が売上の大半を占めています。過去にB社から大幅なコストダウンを求められ、やむなく要求を受け入れました。しかし、その後、業務負荷の増大・原材料費の高騰等の要因が重なり、従前の単価では採算が取れない状況に陥りました。そのため、A社では人員を補充する余裕がなくなり、社員の長時間労働による努力によって何とか利益を確保してきました。しかし、社員の出退勤の時間を客観的な方法で管理しておらず、社員の自己申告に任せてきたところ、体調不良で休職中の社員から、未払残業代の支払を求める訴訟が提起されました。
コンサルタントの関わり方
法的トラブルの背後にある経営課題を整理し、将来に向けた制度改革につなげる
私は、中小企業診断士としてA社の経営改善計画の作成支援を行っていましたが、同時に、弁護士でもあることから、社員から提起された訴訟には弁護士として対応しました。訴訟は、無事に和解が成立して解決しました。しかし、短期的に目の前のトラブルを火消しするだけでなく、このような法的トラブルの背後に隠れている経営課題を解決しなければ、同じような法的トラブルが繰り返されてしまいます。そのため、今回の法的トラブルが、将来ありたい姿に近づくための制度改革の契機となるよう、背後の経営課題に対する対応策を経営改善計画に盛り込み、その実行をサポートしていくことにしました。
解決方法
社員の理解を得ながら取り組む計画的な制度改革
A社の経営者は法的トラブルを経験し、社員の健康や家庭生活に配慮した労働環境を整備することが重要であると考えるに至り、これまで放置してきた労働時間管理と賃金体制の見直しに着手することを決意しました。しかし、社員の理解を得られるかどうか不安があり、また、残業代支払いによる収益性の悪化も懸念事項でした。そこで、社員の理解を得ながら、労働時間管理や賃金体制の見直しを計画的に進めるため、経営者が社員との個別面談を実施するとともに、取引先との間で業務負荷に応じた取引単価の見直しを行うことを経営改善計画の内容に盛り込み、計画の実行をモニタリングしながら経営者の具体的な行動を支援しました。
解決 POINT 1
社員とのコミュニケーションを重視した個別面談の実施
労働時間管理と賃金体制の見直しの実施は、社員の健康や家庭生活に配慮した労働環境の整備を目的とした改善であるとはいえ、トップダウンで進めると社員の反発を招く可能性もあるため、社員一人ひとりに改善に取り組む目的や趣旨を理解してもらう必要がありました。また、経営者は、労働環境を整備するだけでなく、一人ひとりの社員が協力し合えるような「和」を大切にした組織にしたいという想いもありました。そこで、社員に改革の趣旨を説明し、その理解を得るため、経営者が社員との個人面談を実施することを改善計画に盛り込みました。
しかし、当初は、経営者及び社員の双方ともに業務が多忙であったことから、なかなか実施には至りませんでした。そこで、月1回のモニタリングを通じて進捗状況を確認し、時間をかけても着実に、一人ひとりの社員と面談の時間を確保してもらうよう支援しました。また、社員とのコミュニケーションを図る機会として個人面談を位置づけ、具体例として、社員の話を傾聴することで信頼関係を醸成して組織改革を実行した企業の実例等を紹介し、社員とのコミュニケーションを重視した面談の具体的なイメージを持ってもらうようにしました。その結果、経営者が、社員全員との個別面談を完了した時点で、大半の社員が経営者の考えに賛同して協力すると表明するに至りました。
しかし、当初は、経営者及び社員の双方ともに業務が多忙であったことから、なかなか実施には至りませんでした。そこで、月1回のモニタリングを通じて進捗状況を確認し、時間をかけても着実に、一人ひとりの社員と面談の時間を確保してもらうよう支援しました。また、社員とのコミュニケーションを図る機会として個人面談を位置づけ、具体例として、社員の話を傾聴することで信頼関係を醸成して組織改革を実行した企業の実例等を紹介し、社員とのコミュニケーションを重視した面談の具体的なイメージを持ってもらうようにしました。その結果、経営者が、社員全員との個別面談を完了した時点で、大半の社員が経営者の考えに賛同して協力すると表明するに至りました。
解決 POINT 2
数値データを活用した取引先との価格交渉
A社では、労働時間管理と賃金体制の見直しを実施した場合、残業代の支払により人件費が増加することが見込まれていました。A社では、大手取引先であるB社の要望に対応するたびに業務負荷が増大していました。にもかかわらず、採算の取れない従前の単価のまま取引を継続することは、A社の経営を逼迫する要因となっていました。経営者は、これまで何度も取引先には、口頭で単価の引き上げをお願いしていましたが、回答がないまま放置され、うやむやになってしまったことが多々ありました。
そこで、価格交渉を行う際には、単価の値上げを求める理由を具体的に明記した書面を交付することとしました。また、B社との取引における売上、人件費を含めた経費、利益に関する数値データ、及び、同業他社平均の数値データを取りまとめた根拠資料も併せて提出することとしました。その結果、提出した資料が担当者限りではなくB社内で検討されるようになりました。このように、経営者が、数値データを活用しながら粘り強く交渉を継続しているうち、独占禁止法や下請法の取り締まりが強化されたこともあり、少しずつ取引条件が改善されていきました。
そこで、価格交渉を行う際には、単価の値上げを求める理由を具体的に明記した書面を交付することとしました。また、B社との取引における売上、人件費を含めた経費、利益に関する数値データ、及び、同業他社平均の数値データを取りまとめた根拠資料も併せて提出することとしました。その結果、提出した資料が担当者限りではなくB社内で検討されるようになりました。このように、経営者が、数値データを活用しながら粘り強く交渉を継続しているうち、独占禁止法や下請法の取り締まりが強化されたこともあり、少しずつ取引条件が改善されていきました。
解決 POINT 3
労働時間管理と賃金体制見直しによるコンプライアンスの徹底
A社では、経営者の社員との個別面談がひととおり完了した後、B社との価格交渉に成果が見えてきた段階で、労働時間管理と賃金体制の見直しに着手しました。助成金等を利用して労働時間を管理するシステムを導入し、導入後は、社員がきちんと出退勤情報を入力するよう業務フローを整備しました。また、賃金体制の見直しに関しては、固定残業制を導入しました。また、社員間で待遇差に対する不満が生じていたことを踏まえ昇給の基準を明確化しました。
効果・成果
経営者としては、労働時間管理と賃金体制の見直しに取り組むことは、人件費の増大を伴う苦渋の決断でしたが、社員とコミュニケーションを図りながら、社員の理解を得て進めたことで、社員の業務に対するモチベーションが増大しました。また、同時に、取引先との価格交渉に一定の成果があったことで、人件費の増大が利益を圧迫するには至りませんでした。さらに、経営者が、法的トラブルを通じて、社員の健康や家庭生活に配慮し、自らがコンプライアンスを徹底する姿勢を示したことで、社員の間にも、経営者に対する信頼が生まれました。何より、経営者自身が、社員に申し訳ないという後ろめたさから解放され、社員とともに、より良い会社にしていこうと前向きに事業に取り組むようになったことが大きな成果となりました。
法的トラブルの裏に潜んだ経営課題の解決に向けて
訴訟などの法的トラブルを解決する専門家は弁護士ですが、往々にして弁護士は、既に生じているトラブルを解決することに目が行きがちです。しかし、法的トラブルが発生したときは、会社の事業のあり方や組織のあり方に何らかの経営課題が潜んでいることが多いものです。
私は、たまたま、弁護士と中小企業診断士という二つの資格を併有しているため、弁護士として法的紛争を解決する過程で、その背後にある経営課題に気付くことが多々あります。そのようなときは、同時に、中小企業診断士として、その経営課題の解決に向けて支援しています。法的トラブルはなるべく予防したいものですが、万一、法的トラブルが起きてしまったとしても、それは、自社の経営課題に気付くチャンスに変えることができます。
法的トラブル自体の解決は弁護士の業務ですが、その背後に潜んでいる経営課題を解決するために、併せて中小企業診断士にもご相談されることをお勧めします。
私は、たまたま、弁護士と中小企業診断士という二つの資格を併有しているため、弁護士として法的紛争を解決する過程で、その背後にある経営課題に気付くことが多々あります。そのようなときは、同時に、中小企業診断士として、その経営課題の解決に向けて支援しています。法的トラブルはなるべく予防したいものですが、万一、法的トラブルが起きてしまったとしても、それは、自社の経営課題に気付くチャンスに変えることができます。
法的トラブル自体の解決は弁護士の業務ですが、その背後に潜んでいる経営課題を解決するために、併せて中小企業診断士にもご相談されることをお勧めします。