経営コラム

物流費高騰時代の物流費削減

はじめに

近年、物流費が高騰し、その対応に苦慮されている方も多いのではないでしょうか。今回は、その背景と物流費削減のヒントになりえる事例について述べたいと思います。

ヤマトショックはなぜ起こったか

2017年4月にヤマトホールディングスの山内会長は、「インフラを維持するために一度、運賃のベースを上げる。たいへん心苦しいが、ご理解を賜りたい」と会見で語りました。この時は、これがどれほどの値上げなのか、どれほど本気なのかを誰も予測できていませんでした。
しかしながら、大手得意先のひとつであるアマゾンの取り扱いの大幅減をも厭わない断固とした値上げへの姿勢に、多くの荷主が覚悟をしました。筆者の顧問先でも軒並み30%近くの値上げ要請を受け、交渉むなしくほぼ要求通りの料金へ改訂されることとなりました。このヤマト運輸の動きに呼応して、運送業界の値上げが相次ぎ、「ヤマトショック」と呼ばれるまでになりました。
これまで、2~3%の値上げの要請はあったものの、30%の値上げは取引の中止を求めていると取られてもおかしくない値上げ幅です。なぜ、これほどまでにヤマト運輸は値上げにこだわったのでしょうか?
実は、その前年、ヤマト運輸は福岡県と神奈川県の支店で労働基準局の立ち入り検査により、違法な残業を指摘されています。そして、2017年9月には労働基準法違反で会社として書類送検されました。この事件でヤマト運輸が未払残業代として支払った額は242億円にのぼります。
このような事態が起こった原因はドライバー不足です。一流企業であるヤマト運輸でも、ドライバーは必要数を満たしていません。原因は、運送業界の長年にわたる長時間労働と低賃金が引き起こした「ドライバー離れ」です。運送業界は「(労働時間は)2割長く、(賃金は)2割低い」と言われており、このことは、厚生労働省の調査でも明らかになっています(図表1)。また、2019年2月に全日本トラック協会が発表した「トラック運送業界の働き方改革実現に向けたアクションプラン」でも、このことに触れています。そして、この状況の改善のため、日本では珍しい省庁横断型のプロジェクト(厚生労働省と国土交通省)が進んでいます。
先ほどの「2割長く、2割安い」状況を改善し、他産業と同等の労働環境にするためには、40%の運賃改善が必要となります。ヤマト運輸の値上げの根拠はこの点にあります。

図表 1

運賃高騰時代の見通し

上記のようにトラックドライバーの雇用環境改善は政府の方針でもあり、今後運賃が劇的に下がることはありません。コロナ下で、多少の上げ止まり感はあるものの、2033年にはドライバーの時間外労働の上限が年960時間に制限されますので、これに対応するために、業界ではドライバーの雇用を増やす必要があり、今後も運賃の上げ圧力は続くと考えられます。

物流費の削減に向けて

運賃だけでなく、物流関連の人件費も上がる傾向にあります。リクルートジョブズの調査によると三大都市圏の物流作業に関わるアルバイトの本年5月の平均時給は1093円と、前年同月比で26円(2.4%)の上昇となっています。
つまり、物流の原価を労務費の面から下げることは、非常に困難となっています。
それでは、どのようにして物流費を下げればいいのか?
答えは「運ばない」「保管しない」です。そんなことをすれば、売上そのものが下がってしまうと思われるかもしれませんが、今の物流の現場をよく観察することで、売上を下げずに物流費を下げるヒントが見つかります。
以下はその事例ですので、参考にしてみて下さい。

●物流費を下げる策①:運ばない
売上を伴わない移動をやめる
複数の店舗や工場を有する企業では、拠点間での輸送が発生することがあります。例えば、「ある地域の在庫が不足しているために他地域から補充する」「A工場ではできない加工があるので、B工場に依頼して加工してもらう」といったような自社拠点内での移動です。
販売に伴う移動であれば、売上につながりますが、このような自社拠点間の移動は売上につながりません。つまりムダな移動となります。
このようなムダな移動を無くすためには、以下のような方法があります。
・在庫管理をしっかりと行い、在庫切れを起こす前に適切な仕入れを行う。
・工場の集約を行い、工程間移動を施設内に収める。

●物流費を下げる策②:保管しない
売れないものの保管をやめる
経営者の方は是非倉庫の中を見回って、不要なものが保管されていないかチェックしてみて下さい。具体的には以下のようなものです。

・使用できない販促品
3年前のカレンダーや販売終了品のカタログが残ってませんか?販促品を購入時に一括で費用処理し、資産台帳に載っていない場合、現物を見ないとデータ上ではその存在が分かりません。使えないもののために、倉庫代を払っていませんか?

・生産中止したものの材料や部品
いつか使えるかもと、ホコリをかぶったままで置いているものはありませんか?廃棄物処理費を惜しんだために、賃貸スペースが広がっていませんか?

「運ばない」「保管しない」の他にも、色々と節約する方法はあります。
それらをご紹介します。

●物流費を下げる策:③まとめて運ぶ
顧客への納品を宅配便で行っている場合、複数個口で同一送り先に宅配便を使用していないかチェックしてみましょう。宅配便は1個いくらの料金体系ですので、2個になれば2倍に、3個になれば3倍になります。その反面、特別積合わせと呼ばれるサービスは1口の貨物(同じ送り先にまとめたもの)の重量〈容積〉と距離に応じた料金体系になっており、重量逓減制といって、重くなればなるほど1kg当たりの運賃が安くなります(図表2)。特別積合わせ事業者は、インターネットで検索すれば、すぐに見つかります。自社に近い事業者複数社から見積もりを取ってみましょう。多くの場合、2個口から特別積合わせの方が安くなります(図表3)。

また、宅配便が引き受けるサイズになるのであれば、複数個で出さずに梱包して1個口にすることで、運賃を下げることもできます(図表4)。

図表 2(国土交通省平成11年標準特別積合わせ運賃(抜粋))

図表 3(宅配便と特別積合わせ便の運賃比較)
注:上記運賃は一例で、実際の運賃は事業者との契約等により異なります。

図表 4

●物流費を下げる策④:荷物を小さくする
宅配便を利用しても、特別積合わせを使用しても、荷物が大きくなれば運賃が高くなります。自社の商品に合ったサイズの梱包をしているかチェックしてみてください。工夫をして宅配便の適用サイズを1ランク下げるだけで、運賃は下げることができます。

この他にも、単純な値下げ交渉以外の物流費削減事例はいろいろとあります。運賃や労務費が高騰するなか、そこを抑えることによる利益効果は大きいので、ぜひできるところから、取り組んでいただきたいと思います。
物流は「物」によって制約があり、それぞれ最適な方法があります。物流業務の経験が豊富な中小企業診断士は様々な事例を経験していますので、相談してみてはいかがでしょうか?

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