経営コラム

マーケティング上手は採用上手!採用力を高める人事制度とWeb活用

最優先課題になりつつある人材確保

団塊の世代の引退や若者の減少によって人手不足に拍車がかかり、希望通りに採用できない企業が増加しています。DX(デジタル・トランスフォーメーション)によってアナログ作業や非効率な業務をITに置き換えられる余地はあるものの、必要な人材を確保できなければ事業継続がままなりません。人材の有無が事業の継続や競争力の維持・向上に大きく影響するため、人材確保が最優先課題となっている企業も少なくありません。
本コラムでは、人材確保が経営課題となっている企業を想定して、採用力を強化するためのヒントをお伝えいたします。

企業に求められる「採用力」とは?

企業が事業の運営・継続に必要な人材を確保するために、何が必要でしょうか?言い換えると、働く会社を選ぶ求職者は、何を求め、どのように企業を選んでるのでしょうか?

求職者にとって、職種や業務内容、働きがいなども大切です。しかしそれだけではなく、前提として給料や各種手当、年間休日の日数や育児休暇の有無など、待遇や働きやすさといった現実的な部分も重要です。働きがいがありつつも、働きやすさや安定した生活基盤を得られる企業を選ぶ方が多いのが現実です。
そういった求職者のニーズに応え、かつ今働いている従業員の待遇を良くしていきたい経営者は多いものの、中小企業が大企業並みの環境を構えることは難しいものです。そのため、大手より条件が見劣りするため、採用募集をかけても希望した人数が集まらないといった声も聞かれます。

そのような企業が求職者から選ばれるには、「採用力」を高める必要があります。採用力とは、私は、経営力、雇用力、広報力の三つの要素からものとして、以下のように定義しています。


※平成30年2月26日「採用に直結!魅力が高まる人事制度と採用活動(主催:一般社団法人大阪中小企業診断士会 / 講師:中小企業診断士 松尾健治(筆者)」のセミナー資料を編集

(1)採用における「経営力」
経営力とは、その名の通り、企業の収益性やビジネスモデルなどの企業の強みや競争力に関することです。これは、賃金等の処遇にも関わる部分で、給料の支払い原資となるお金を稼ぐ力です。ただ、今稼ぐ力があるだけでなく、企業に将来性があるかも重要なポイントです。求職者は、安定して長く働き続けることができて安心した暮らしが継続できるか、将来の給料が増える可能性があるかどうかを判断材料の一つにしています。
また、金銭面だけでなく、社会性があるかも重要になっています。企業が掲げる理念に共感できて働きがいのある仕事が待っているか、仕事自体が社会貢献にもつながっているかといった部分です。最近のキーワードではSDGsに関連する部分です。経済と社会貢献を両立する考えは、若者を中心に重要視する人が増加しています。

株式会社学情の調査によると、転職活動する人の半数以上が、企業が「SDGs」に取り組んでいることを知ると「志望度が上がる」と回答している。
※各出典:株式会社学情による[20代専門]転職サイトNo.1「Re就活」でアンケート結果

(2)採用における「雇用力」
雇用力とは、まず、企業の社風や仕事内容、事務所の居心地・清潔さ、先輩・同僚等の「働く環境・人」が挙げられます。退職理由は人それぞれありますが、企業に対する表向きの理由はあくまでも建前であり、本音を聞くと社長や先輩・同僚たちとの「人間関係」や「職場環境」に関する事を理由に挙げる方が少なくありません。また、風通しや居心地の良い環境がないと思われた企業は、せっかく採用をした人材が、すぐに退職してしまうことも少なくありません。
そして、賃金や評価制度、残業時間や福利厚生などの「処遇」、教育研修やキャリアパス、資格取得制度などの「育成の仕組み・制度」など、人事制度の整備状況も影響します。社風等の「環境」は一朝一夕に理想像に近づけることは難しいものですが、「処遇」や「育成」などの人事制度は、自社の努力次第で構築でき、制度構築後から比較的短期間に効果を得られやすいものです。

(3)広報力
広報力とは、求人サイトを活用したり、採用専用のパンフレットやホームページ等の採用ツールを整備活用することです。採用に関する「媒体・ツールの整備・活用」することは必須です。その上で、自社ホームページや採用サイトで、求職者に対して我が社をどのような印象をもっていただくのか、「ブランディングやデザイン」も大切な要素です。そのブランディングを支えるためには、社長が熱量をもって求職者に訴えるメッセージ性や、採用担当者がいる場合は求人票で自社の特徴や魅力を伝える表現スキルを高めることも大切になります。

これら「経営力」、「雇用力」、「広報力」の3つの要素のそれぞれが重要な要素であり、全てが相互補完している関係にあるため、全てに取り組んでいくことが求められます。しかし、企業によって得意分野や課題は異なります。
課題の優先順位は企業によって様々ですが、雇用力の「処遇」や「育成」に関する人事制度にかかわる部分と、求人サイトやホームページの活用に関連する「媒体・ツール」および「ブランディング」については、自社次第、かつある程度の期間内に対応できるものです。
近年では、採用がうまくいっている企業は、自社が獲得したい人材像を明確にした上で、ターゲットとなる求職者のニーズとマッチした人事制度を構築し、その内容をもとに採用ブランディングをしながら、求職者に対するPR材料としつつ活用しています。

人事制度の構築を採用力の強化につなげる

先に述べた通り、採用力の強化手法として、魅力的な人事制度を構築し、その制度をPR材料にして応募を集めることは一つの手段です。まずは、人事制度について説明いたします。

(1)そもそも人事制度とは?
人事制度は、「賃金制度」、「人事考課制度」、「教育制度」からなります。
3つの制度を簡潔に説明すると、まず賃金制度とは、仕事の何が評価されて、給料にどう反映されるか、また年齢によってどう変わっていくのかを明確にした制度です。次に、人事考課制度とは、仕事の成果や、仕事に関する能力や行動、やる気等を評価して、給料の査定や人材育成を図るものです。そして、教育制度とは従業員に投資をすることで経営に貢献する人材を育てることです。

(2)人事制度を必ずつくらなければならないのか?
従業員が多くなければ、明文化された人事制度はないと答える企業が多いものです。そして私は、人数の規模によっては、必ずしも明文化された「賃金制度」や「考課制度」が必要とは考えていません。
しかしながら、求職者に対するPR材料として人事制度を活用し採用力を高めていくには、経営者の頭の中にあったり、暗黙のルールとなっている人事制度を見える化し、“制度”に落とし込んでいくことが求められます。
必ずしも、新しい制度を考える必要はありません。今、制度として明確になっていなくても、理念や経営者の想い、沿革、従業員の給与等の決め方をヒアリングしていくと、人事制度の輪郭が見えてきます。それを人事制度として落とし込んでいくのか、そのまま暗黙のルールとして運用していくのかは、従業員数を考慮した上での経営者の判断によります。

(3)見える化した人事制度を広報に活用する。
見える化した人事制度を、求人票やホームページ、求職サイトのPR材料として活用していきます。
ここで大切なのは、あくまでも求める人物像に基づいて、アピールする人事制度の内容を絞り、しっかりと伝わるように表現することです。この段階では、マーケティングの視点が欠かせません。
特に現代は、年齢問わず求職者はインターネットで求人情報を探す時代です。集客や営業活動と同様に、Webマーケティングの知識やノウハウを駆使することで、採用活動が上手くいく可能性が高まります。
企業の光る部分をもってターゲットを集客・アプローチし、問い合わせ等につなげていくのは、一般的なマーケティング活動と同じです。「マーケティング上手は、採用上手」と考えるのは、マーケティングが得意な企業は、採用活動も得意なことが多いためです。

人事制度の構築は、“未来の視点”が求められる

留意したいのは、求職者にとって魅力的な人事制度を構築できたとしても、実現できなければ絵に描いた餅になります。採用だけを目的にして人事制度の“見栄え”を良くしても、運用できなければ意味がないだけでなく、経営が危機的な状況に陥る要因にもなりかねません。
そのため、利益やキャッシュ等の経営の数字に基づいた人事制度の構築が求められます。また、“現在”だけでなく“未来”の視点で考える必要があります。例えば、下図のような年齢構成・役割の分布の企業の場合、10年後はどのような状況になっているでしょうか?


※平成30年2月26日「採用に直結!魅力が高まる人事制度と採用活動(主催:一般社団法人大阪中小企業診断士会 / 講師:中小企業診断士 松尾健治(筆者)」のセミナー資料を編集

おそらく、管理職の高齢化の引退により、人材配置や企業収益の給料分配のバランスがいびつになる可能性があります。このような現状把握をしてこそ、企業の将来を見据えた人事制度や採用戦略を検討できるようになります。
企業によっては、とにかく今人手が足りないので誰でもいいから必要という場合もあることを理解します。それでも、平行して、中長期的な視点で現状を分析した上で、採用活動に取り組んでいただきたいと考えています。

経営ビジョンから人事制度、採用活動に落とし込む中小企業診断士

単純に人員を集める「採用活動」ではなく、企業経営の視点の採用を戦略的に支援するには、経営計画・事業計画の策定やマーケティング、人事制度構築、ブランディング、デジタル・IT活用(DX含む)、人員配置や設備投資など、複合的で専門的な知見やノウハウが求められます。
従業員数が多くない企業の場合は、私のような中小企業診断士が一人で対応できますが、従業員規模が大きくなれば、考慮すべき事項も多くなります。大阪中小企業診断士会は、様々な業種・業務のスペシャリストだけでなく、弁護士、公認会計士、社会保険労務士といった国家資格を保有する専門家が揃っています。
経営戦略や事業計画とリンクさせながら、採用力を強化し、必要な人材を確保したいとお考えの企業または経営者は、ぜひ大阪中小企業診断士会にご依頼ください。

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