運送業が抱える2024年問題の影響について(変わりつつある物流)
はじめに
最近、「2024年問題」という言葉を、インターネット上などでよく目にします。本コラムでは、「2024年問題」とは何か?何故、そのような問題が発生したのか?そして、荷主企業としてどのような対策をするべきかについて、お話しします。
【2024年問題とは何か】
「働き方改革」という言葉は、最早過去のことのようになり、耳にする機会は減ってきていますが、この働き方改革法案の目玉であった「罰則付き時間外労働の上限規制」の適用が猶予されている事業・業務があります。
それは、以下の表にあるとおりですが、これらの事業・業務に上限規制の適用猶予が与えられた原因は、現状、長時間労働を許容せざるを得ない状況にあるからです。そのため、上限規制の開始を5年間猶予することで、業界全体、社会全体として事業構造の改革を行い、新たな制限に適応できるようになることを求めています。
この期限が2024年となりますが、それぞれの業界で対応に苦慮していることから、「2024年問題」として取り上げられています。
次に、運送業界にフォーカスして解説します。
参考資料「厚生労働省 『時間外労働の上限規制_わかりやすい解説』」
【運送業界で長時間労働となる理由】
運送業界といっても、業務によって問題は異なります。ここでは、1.長距離輸送、2.中短距離輸送、3.宅配・積合わせ輸送の3つの業務に分けて解説します。
1.長距離輸送
長距離輸送とは、概ね往復1500km以上の泊付輸送(運行途上で泊まりが発生する輸送)と定義して、解説します。
往復1500km(片道750km)というと、大阪・熊本間に相当します。大阪のスーパーで見かける、熊本産のトマトやスイカ(いずれも産出額全国1位)は、長距離ドライバーによって運ばれてきているのです。
この長距離輸送が長時間労働になる理由には、以下のようなものがあります。
①距離が長い
大型トラックの高速道路での制限時速は80kmですので、750km走るためには約9時間半必要となります。これに集荷や配達のための高速道路以外の運行もありますから、元々時間外労働が必要な距離となっています。
②積み下ろしに時間が掛かる
長距離輸送には、大型トラックが主に用いられます。運賃の大きな部分を占めるのは労務費ですから、1人のドライバーに多く運んでもらった方が、商品の運送コストは安くなります。運ぶ量が多くなりますので、当然積み下ろしにも時間が掛かります。パレット等を利用して、積み下ろしの時間を少なくしようという取り組みもありますが、パレットを使用すると積載効率が低くなります(20~30%というケースもあります)ので、ダンボールを直接トラックに手で積込み、手で下ろすという作業を強いられることも多くあります。
例えば、大型トラックには、30cm四方のダンボールであれば、約1500個積めます。この積み下ろしには1時間半程度必要です。積みと下ろしの両方で3時間ですから、運行時間の9時間半にプラスすると既に12時間半かかることになります。
③荷待ちが発生する
運行距離が長いことから、途中で交通渋滞等が発生することを予想して、指定到着時間に間に合わせるために、余裕を持った運行計画を組むことが一般的です。しかしながら、指定された時間についても、荷物の下ろしが到着順になっていて、すぐに下ろすことができない場合があります。1時間待ちは当たり前で、ひどい例では翌日まで下ろせなかったということもあります。
これでは、労働時間が長くなるのは仕方がありません。
2.中短距離輸送
この中には、宿泊を伴うような輸送(中距離輸送)や、限定された地域の中だけの輸送(短距離輸送)で宿泊を伴わないものも含まれています。
中距離輸送では、長距離輸送の距離以外の要因は同じで、特殊な要因として、距離が中途半端なため、発荷主の積み下ろしの指定時間と、運行時間がマッチしておらず、待機時間が発生するというものがあります。
短距離輸送では、概ね労働時間管理は行いやすいものの、待機時間の発生が避けられないものもあり、長時間労働となる場合があります。
右の表は、筆者が過去に支援した、エリア内配送を行っている事業者での労働時間を分析したものです。運行時間(営業所を出て帰るまで)が10時間未満の場合には、トラックが動いていない停止時間の割合が50%を超えるのは16運行中1運行だけでしたが、10時間を超える場合、50%以上停止している運行が24運行中15運行となっており、待機や積み下ろしの時間によって労働時間が長くなっていると分析しました。
3.宅配・積合わせ輸送
宅配や積合わせ輸送は、ヤマト運輸や佐川急便、西濃運輸といった大手事業者が行っていることが多いため、比較的労働時間管理はしっかりしています。それでも、リスクの高い長距離となる幹線輸送(拠点から拠点の輸送)は下請けに依存しており、長距離輸送の難しさが分かります。
この分野で今問題になっているのが、軽貨物輸送での長時間労働です。軽貨物輸送はいわゆる一人親方が可能で、個人事業主で行える分野となっています。そのため、労働時間の管理が不要となり、時には長時間労働を続ける事業者もいます。特にアマゾンでは、従来、ヤマトや佐川に依頼していた業務を直接これらの軽貨物輸送事業者に依頼するシステムを構築しており、AIで計算した配達順序を指示して配送効率を上げるといった試みを行っています。我々利用者側にとっては、最短で当日届くといったメリットはあるものの、ドライバーにとっては過酷な業務となっている場合もあります。
【今後どうなっていくのか?】
現在、運送事業者は次のようなジレンマに悩んでいます。
「2024年問題に対応するためには、ドライバーの労働時間が短くなるように、運行計画を組まなければならない」しかし、「労働時間が短くなると、ドライバーの給与が減ってしまい、やめて行ってしまう」。
このジレンマを解消するためには、運賃を上げるか、運行の生産性を上げるかのどちらか、又は両方を実現する必要があります。しかしながら、自社の努力だけではどうにもならないという実態があります。
2018年に行った長距離輸送を行う事業者へのアンケート(九州トラック協会・全日本トラック協会)では、「既に規制内に収まっている」「今後、自社の努力次第で守れる」と回答した事業者は約4割にとどまり、「自社の努力だけでは難しい」と回答した事業者が5割を超えています。
これまで見てきたように、運送事業者自身に起因する原因よりも、集荷・配達の時間指定や、荷待ちの発生といった荷主側に起因する事象が、長時間労働の原因となっており、荷主の協力が無ければ、生産性の向上も望めません。
さらに、適正な運賃の収受にも、荷主の理解が必要です。
2022年7月のドライバーの有効求人倍率は、下表のように3.55となっており、一人のドライバーを3.55社で奪い合っている状況になっています。ドライバーという職業が魅力的な職業にならない限り、この数値は改善せず、ドライバー不足は続きます。「荷物があるのに運べない」という状況が訪れることは、誰にも否定できません。
今後も、ドライバー不足の状態は続き、運送会社からの値上げ要請が続くことは間違いなく、2024年を迎える頃には、さらにこの傾向は強くなると考えられます。
参考資料「愛知労働局 最近の雇用情勢」
【荷主として、どうすればいいのか】
上記のような、物流費の上げ圧力がある中で、荷主としてはどうすればよいのでしょうか?
1.運送業者の生産性向上に協力する
「トラックを待たせない」、「積込みや荷下ろしを簡略化し、手作業を減らす」といった労働時間短縮に協力することで、値上げ要求を一定程度抑制することは可能です。運送事業者とよく話し合うことで、積込場所の改善やパレットの使用等、貢献できる改善策を探しましょう。
2.運賃が上がることを前提に値決めをする
現在、生活必需物資の値上げが相次いでいます。その理由の中に「物流費」の高騰を上げる企業も多くあります。社会的にも「仕方ない」という意見が多くなっていますので、自社の値決めにおいても、物流費の値上げを織り込んでおく必要があります。
3.輸送手段の見直し、在庫レベルの見直しを行う
現在、使用している輸送手段が適切なのか、他に手段が無いのかを検討しましょう。案外、見落としがちなのが、複数小口での宅配便の利用です。「特別積合わせ便」を利用することで、場合によっては半額程度の運賃になることもあります。
また、過剰在庫の発生により、無駄な保管コストの発生や、他倉庫への横持等売り上げの発生しない移動が行われていませんか?
自社の業務プロセスを見直すことで、運賃の値上がりを相殺する効率化も可能です。自社で中々改善が進まない場合には、経験豊富な中小企業診断士に相談することもお考え下さい。色々な事例に基づいた、具体的な効率化の助言が得られます。
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